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先日、「婚活連続殺人事件」の木嶋佳苗被告の自伝的小説『礼賛』が角川書店から発売された。彼女が起こしたとされる2009年に発覚した3件の殺人、6件の詐欺・詐欺未遂、そして、1件の窃盗の容疑からなる事件番号「平成21年(わ)第1809号等(詐欺、詐欺未遂、窃盗、殺人)」は、2012年にさいたま地方裁判所で行われた第一審が話題になった。
女性アーティスト・ろくでなし子が語っていた本音 「女性器は現実。汚いものとして嫌ってる風潮が疑問だった」
被告人質問の際に、木嶋被告が赤裸々に自らのセックスを語り、自分の性器がすぐれているという「名器発言」はメディアで大きく取り上げられた。一審判決は全面的な有罪判決で、その後、木嶋被告が朝日新聞社に送った手記やブログも大きな反響を呼んだ。被告としてだけではなく、書き手としても注目される彼女の処女小説はどのような内容なのだろうか。
■事件にはほぼ触れず
主人公・木山花菜は、北海道の片田舎ながら文化的な家庭の長女として生まれる。幼いころからピアノを習い、文学に触れ、一見恵まれた育ちにみえるが、花菜をとりまく大人たちはかなり強烈だ。
花菜は8歳の頃に早すぎる初潮を迎えるが、10歳の時には小学校の男性教諭から「木山さんが妊娠しているという噂が流れているんです」と告げられる。同じ年、競馬ファンの祖父は、旅行先で馬の種付け……つまり交尾のシーンを花菜に見せる。そして、太り始めた花菜に母親は「花菜がそんなに太っていると、母親の管理能力が低いと思われるのよ。肥満児の娘の母親だなんて言われたら恥ずかしい」とダイエットを強要する。物質的には恵まれているようにみえても、かなりストレスがかかる子供時代が描かれる。
そんな花菜は高校時代、夏期講習を受けるためにひとりでホテル暮らしをし、そこで出会った年上の男性に誘惑され、初めてのセックスを経験し、彼にのめりこんでいく。相手の男は花菜をだまし、結果、彼女は犯罪に巻き込まれてしまう。これをきっかけに花菜の人生は大きく変化していく。
大学受験をし損ね、高校を出ると東京で就職をするが、職場でうまくいかず退職。時はバブル崩壊後の1990年代の東京で、「援助交際」という若い素人女性の性を売る風俗が流行していた。花菜も年上の男性に援助してもらうようになっていく。本作は花菜がネット婚活をはじめるところで物語は終わり、裁判になっている事件についてはほぼ語られない。
■韓国男性は騎乗位を好まない
二段組みで500ページ近い大作である。拘置所の中で手書きにて本作を書き上げた木嶋被告のパワーには圧倒されるものの、ブログや手記でみせた過剰さはなく、読みやすい文章になっている。
東京に出てきてからの出来事を描く後半では、医師に膣をほめられたことや、韓国人が女性上位のセックスをしないのは徴兵制があるからかもしれない……といったような彼女らしい赤裸々な性に関する対する記述が沢山登場する。また、恋人である年上の学校事務員の容貌が、『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンみたいだったのが四十路を過ぎると「アサミ美容外科の総院長」に近くなった等のユーモラスな表現も出てくる。
■本の印税は社会福祉に貢献している団体に寄付する意向
今までも殺人事件の被告による手記が書籍として発売されたケースはあった。1969年に逮捕された連続射殺事件の永山則夫元死刑囚『無知の涙』、2007年に起きた英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の市橋達也被告の逃亡記『逮捕されるまで ―空白の2年7カ月の記録―』(幻冬舎)はベストセラーとなった。両方とも被害者を殺害したことは認めた上での手記だった。しかし、木嶋佳苗被告は現在も被害者を殺したことは否認しており、本の印税は社会福祉に貢献している団体に寄付する意向だ。また、被告の最初の著作が手記ではなく、自伝的小説の形態であることも目を引く。
木嶋被告の裁判は、第一審のおいて全面有罪で死刑判決が出て、控訴したが棄却され、二審でも死刑となって、現在、上告している。
第一審はあまりにスキャンダラスに報道された。毎日違う服で着飾っていて、反省している様子が見えないとバッシングもされたが、実際に裁判を傍聴していた記者たちの間からは違う感想も出ていた。
裁判を傍聴したノンフィクションライターの杉浦由美子さんは「派手な服装はしておらず、地味に座っていた印象でした。スーツがないから、仕方なく手持ちの服を着ていたのかなと感じました。裁判を傍聴していた新聞記者の中には『根っからの悪人にはみえない』という人もいました」という。一連の「毒婦」報道とは違う一面を知るためにも、“木嶋佳苗ウォッチャー”にとって、本書は興味深い一冊となろう。(木原友見)