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農協は「抵抗勢力」なのか? 地方から見える構図は

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農協は「抵抗勢力」なのか? 地方から見える構図は

 農協は「抵抗勢力」なのか? 地方から見える構図は

 

  安倍政権の主導する農協改革が進展しています。JA全中(全国農業協同組合組合中央会)の一般社団法人化などの骨格を決めた政府は、来月にも関連法案を国会に提出する方針です。ただ、全中をめぐる議論や農水相の交代が象徴するように、見えてくるのは中央でのドタバタばかり。地方の現場に立つと、改革に対する冷ややかな見方や、逆転した構図も見えてきました。

「農協解体」という大きな波

  今回、小泉内閣の郵政改革とも並べられ、「悪役」「抵抗勢力」のイメージで見られがちな農協。しかし、愛知県内の地域農協の幹部職員は「実態とかけ離れ、誤解されてしまっているのでは」と危機感を表します。
 
 「地域農協も合併されて大きくなり、地域とのかかわりが希薄になったといった批判は確かにある。しかし、もともとは農家の自助組織として弱者を救済し、地域に貢献するのがわれわれの役割。耕作放棄地の管理など、もうからないがやらねばならないこともある。そうした地道な活動が伝わらないまま、『農協解体』という大きな波にのみ込まれてしまうのが怖い」
 
  今回、焦点となっているJA全中の監査、指導権の廃止論議についても首をひねります。
 「県(JA都道府県中央会)を含めて二重三重に監査があり、厳しいことは確かだが、『こうしなさい』というより『こうあるべきだ』と言われる感じ。監査によって地域の独自性が縛られているわけではない」

「縛られる地方」に違和感

  中央から都道府県、そして約700の地域農協(単協)で組織される農協。その構図はもっぱら中央集権型のピラミッド組織として見られます。頂点にある中央会の「縛り」を解いて、その下にひしめく地域農協の自由度を高めるのが改革の意義だというのが安倍政権の主張。しかし、この「縛られた地方を救う」というシナリオに違和感を持つ農協関係者が少なくないようなのです。
 
  日本農業新聞が今年1月、全国のJA組合長を対象にまとめたアンケートによれば、回答した組合長の95%が「中央会制度がJAの自由な経営を阻害しているとは思わない」と答え、政府の改革方針に異議を唱えています。
 
  同紙は昨年9月にも「読者モニター」に対して同様のアンケートを行い、中央会がJAの経営を制約しているかという問いに40%の読者が「そう思わない」と答えたと公表。ところが今月、農水省は反対に「そう思う」が26%だったという数字を、中央会が自由を制約している根拠だとして民主党議員の研究会に示し、これに同紙が「データのすり替えだ」と紙面で反論する事態になりました。

「中央」と「地方」の力関係は

  農協における中央と地方の関係は、実際どうなっているのでしょうか。「ピラミッドといっても、関係はむしろ逆」と指摘するのは、元農協の営農指導員で、愛知県の知多地方を中心に活動する農業コンサルタントの高木幹夫さんです。
 
  全中は監査の対価などとして、年間約80億円の賦課金を地域農協(単協)から集め、資金源としています。
 「逆に言うと、単協の資金がなければ全中は成り立たない。全中や県中は自らお金を生み出しているわけではないから。単協がきちんと経営できていれば、中央がどうなろうが構わないはず」

 [写真]生産者の名前が入った伝統野菜などが並ぶ愛知県大府市の「JAあぐりタウンげんきの郷」

  高木さんがかかわる愛知県大府市の「JAあぐりタウンげんきの郷(さと)」は、農産物の直売所にレストラン、体験農園、天然温泉までを備えた複合施設。15年前、周辺3農協が合併した「JAあいち知多」が、全額出資の株式会社をつくって運営を始めました。売り場には生産者の名前入りの農産品を平等に並べた上で、質の悪い野菜はすぐにバックヤードに下げるなどして農家の競争意識と品質を上げ、代わりに安易な安売りを控えています。ここだけでしか手に入らない伝統野菜の販売などにもこだわり、年間200万人以上が訪れる中部地方有数の人気スポットとなりました。
 
  「いつまでも補助金をほしがり、守られようとしていてはだめ。地域に必要とされる農協に自主改革していかなくては。そのためには生産者と消費者の距離をもっと縮めること」と高木さんは提言します。

農協に頼らず「成長」目指す

  農家が消費者に近づく試みは、むしろ「脱・農協」の現場で見られます。
 
  名古屋市内では、2004年から有機農家たちによる「オーガニックファーマーズ朝市村」が定着しています。繁華街の栄で毎週土曜日に5、6軒の農家が集まって朝市を開いたのをきっかけに、名古屋駅前の「夕ぐれ市」など市内3か所に拡大。今は愛知や岐阜、三重から20以上の農家がとれたての野菜類を持ち寄り、都市部の消費者に直接販売しています。
 
  参加農家の一つで、15年前に愛知県武豊町で農園を開いた太田博之さんは苦い思い出を振り返ります。「当時、農協に融資を申し込んだが有機農家など邪魔者扱い。きっぱり融資を断られた」。

  結局、独自に農地を借り、農業資材も今はホームセンターやネット通販で仕入れています。販路は朝市村を中心に開拓し、売り上げも年々増加。「ようやく農協も有機農業を無視できなくなったと感じる。有機農業こそ成長産業」と自負する太田さん。同じように「農業を成長産業に」と意気込む安倍首相の改革に対しては、「農協との出来レースにしか見えない」と冷ややか。
 
 「あと10年も経てば淘汰され、農協は金融機関だけになるのでは。国は中央の組織の話より、地方でやる気のある農家の壁になっている農業委員会を廃止するなど、もっと根本的な問題に取り組んでもらいたい」
 
  こうした声も受け止めて、ドタバタでなく、腰を据えた議論をしてもらいたいものです。
 
 (関口威人/Newzdrive)

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