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[写真]マツダのコンパクトSUV CX-3がデビューした。メカニズム的にはデミオのデザイン的にはCX-5の兄弟車である
マツダからCX-5のサイズダウン版「CX-3」が発売された。CX-3はCX-5のデザイン文法をほぼそのまま踏襲している弟分であり、エンジニアリング的にはデミオをベースに作られたBセグメントのSUVだ。手始めにまずひとまずサイズを比べてみよう。
旧型の立体駐車場に入る車高
[図表]マツダ各車との比較表
CX-3の各部寸法図面と、比較表をご覧いただきたい。何をどう比べたらいいのかという指標は概ね以下の通りだ。SUVの場合その性格上、室内の広さをまず見るべきだ。この手のクルマでは車高を上げてエアボリュームを稼ぐのが定石だから、まずは高さからだ。
すると意外なことに、CX-3の室内高はBセグメントのデミオと同一である。つまり上方には大して広がっていない。ちょっと期待外れである。室内が狭いのかと、デミオの数値をよく見てみるとクラス上のCセグメントのアクセラの方がむしろ小さい値になっていることがわかる。つまりベースのデミオはそもそも頭上空間にはあまり不自由をしていないとも言える。だからこそ屋根のかさ上げをせずにCX-3に流用ができたわけだ。CX-3の室内のエアボリュームは巨大ではないが大きい方ということになるだろう。
それにしても、なぜ広さを求めるSUVの室内高がデミオと同じなのかと言えば、CX-3は基本的成り立ちがデミオベースであり、同じシャシーをベースにしていることも理由の一つにあるだろう。しかし、どうもそれだけではない。
[画像]CX-3各部の寸法図面
ちょっと外形寸法の車高の値を見てみて欲しい。1550ミリという数値になっている。この1550ミリというのはマジックナンバーで、旧式の立体駐車場の制限寸法なのだ。クルマのカタログを眺めていて、1550ミリという車高の数値に出くわしたら駐車場の制限を気にして作られていると考えてほぼ間違いはない。
つまりCX-3はSUVの割にスペースユーティリティに特化していないということがわかる。むしろ日々実用のアシとして使う時の自由さを確保するために室内高の贅沢はほどほどに留めたという折り合いが見られるのだ。その結果、屋根をかさ上げするような大工事も行わなくて済んでしまったわけだ。
次に、実質的に一番広さを感じる室内幅を比べてみる。流石にCX-5は広い。CX-3と比べると10センチ近い差だ。CX-3はここでも僅かながらデミオに負けている。外寸の車幅ではデミオ比で7センチも拡幅されているが、それはほぼフェンダーのフレアというデザイン要素に食われている。
リアシートが弱点ではあるが
[写真]インパネやメーター、シートなどはデミオと基本的に共通化されている
室内長はフロントシート優先で見るならあまり大きな意味はないので、リアシートを積極的に使いたい人以外はあまり考える必要はない。リアシート優先で使いたいとなれば、そもそもBセグメントでは足りない。そこはCX-5を選択すべきだろう。CX-3の後席は空間の広さそのものは、頭上も含めて思ったよりある。しかしリアシートの出来は背もたれの倒れ具合に対して座面の後傾角が足りないし、ひざ裏のサポートもあまり考えられていないし、左右方向でもヘリの硬さが足りないためお尻が落ち着かない。全部が柔らかいダメなソファーの様だ。多分CX-3の一番顕著な欠点はここだと思う。しかし、繰り返すが、リアシートに大人をしっかり乗せようと言うのは本来、Bセグメントの用途外だと思う。
さて、数値で見る限り、意外にも広くないCX-3だが実際に乗って見ると、良い意味で極めて普通。フロントシートが背もたれを立てたアップライトな姿勢を前提に作られているせいで広さ感を感じるのかもしれない。しかし、その背中の立った着座姿勢でも頭上空間が狭いとは感じない。かと言ってSUVならではの大空間という感じもなく、普通のセダンに乗っている感覚に近い。それでも違和感がない程度には視点が高いから、若干の見下ろし感によって前方も見やすく、車両の感覚も掴みやすい。つまりあれこれが薄めのスペースユーティリティ感なのだ。そうなるとSUVと言っていいのかどうかだ。
ある種のユニバーサルデザイン
[画像]デミオをベースにしながら共用部品は1割から2割程度という。ただし、多くの部品は部材の厚みが違うなどの僅かな仕様変更で差異が生じているだけ。生産設備などを共用できる合理化に抵触しないように仕様を変えることで最適な部品を安価に作れるシステム化がなされている
マツダはいちいち理屈をこねる会社なので「CX-3はSUVではなくクロスオーバーです」と力説する。まあ確かに言われてみると、その絶妙な高さ感は乗用車の自然さとSUVの視界の良さという長所が上手くクロスオーバーしている。なるほどクロスオーバーなのかもしれない。
と書くとマツダに「そうじゃない」と言われそうだ。「乗用車とSUVのクロスオーバーではなく、ユーザーのライフスタイルのクロスオーバーです」という説明だった。マツダは良いことを言うのだが、いつも分かりにくい。書き手の方がちゃんと翻訳しないとただの宣伝文句に見えてしまう。どうにかならないのだろうか?
「ライフスタイルのクロスオーバー」という言葉でマツダが言いたいのは「いかなる用途にも使える」ということだ。車高の話もその一つの現われだ。SUVっぽくするために着座位置をグーンと上げれば乗り降りがしにくくなる。かと言ってスポーツカーの様に低過ぎるのもダメだ。
マツダは一番自然に、つまり体に負担をかけずに座れるシートの高さを600ミリだと判断した。これだとよじ登ったり、膝を曲げてかがんだりする必要がないから、筋力に依存しない。例えばシニア層であっても自然に乗り降りできるわけだ。ラクに使えるのはシニア層だけではないから、これはある種のユニバーサルデザインだとも言える。
そして車高をむやみに上げなければ、前述の通り駐車場問題でも自由が広がる。日々使いやすいわけだ。従来のセダンより少しだけ高い見下ろしの視点に設定することで前方視認性が上がり、車両感覚も掴みやすい。何よりもボディサイズがコンパクトで、狭い路地でも気兼ねなく入っていかれるし、小回り性能も良いので取り回しの面でもネガが少ない。こういうクルマを使う現実のシーンのあらゆる面でユニバーサルな解を求めて行った結果がCX-3だとマツダは言いたいわけだ。だからマツダはCX-3をして「次世代のスタンダード」だと主張するのである。
「次世代のスタンダード」に
[写真]マツダではこの新ジャンルのポテンシャルが2020年には2倍になると考えている
商品としてCX-3は売れそうな予感がある。ここまで書いてきたように、普通の人が普通に使う乗用車としてかなり普遍性が高い。端的に言って使いやすそうだ。一番上で300万円。下で240万円という価格にはちょっと割高感があるが、その分Bセグメントにどうしても漂う貧乏くささは完全に払拭できている。確かにデミオはそういうものと真っ向から戦ったし、相当以上に善戦したと思うが、サイズそのものが漂わせるクラス感だけは如何ともしがたく残っている。CX-3はCX-5のデザインを上手く踏襲したことで、どこのクラスに属するのか一見よくわからない商品に仕上がっているのだ。
デミオは「クラス概念を打ち破る」と言ってクラスの内側からクラスを壊そうともがいた。そのチャレンジの結果として「Bセグメントにしては高級感がある」あるいは「これまでのBセグメントとは違う」というものになったと思うが、そういう諸々を出し抜いて、Bセグメントだと分からないところへ行ってしまったCX-3は、クラスそのものに縛られずに済んでいる。
純粋なクルマの走りではデミオに軍配が上がると思うが、使い勝手や見栄えといった商品性の話になるとCX-3の勝ちだろう。経済的に余裕があって、ただアシとして普通のクルマが欲しい人にとって、ちょっとくらい割高だとしてもCX-3は魅力的に映るに違いない。
(池田直渡・モータージャーナル)
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