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東京電力福島第一原発事故の避難者向けに福島県が建設する災害公営住宅(復興住宅)で、入居が決まりながら辞退する例が相次いでいる。
昨春以降、募集された752戸分では、少なくとも150件の辞退が発生。割り当ての部屋が希望と合わないミスマッチが主な原因とみられるが、解消の妙案は見いだせていない。
双葉町から郡山市の仮設住宅に避難している林営子(えいこ)さん(71)は昨年7月、市内の復興住宅に当選したが、下見の段階で辞退せざるを得なかった。過去の脳内出血で左半身にまひが残り、途中で休まないと短い距離でも1人で歩くのは難しい。部屋ごとの抽選で当たったのは3階建ての最上階の3LDKだが、エレベーターから50メートル以上、廊下を歩かなければ玄関にたどり着けなかった。「この足では……」と悔しそうに振り返った。
県は昨春以降、1期分528戸について再募集を含めて計7回の募集を実施したが、今年2月末までの辞退件数は累計で135件に上った。昨秋以降の2期分224戸でも、今年1月の抽選で決まった210戸では、15件の辞退が出たという。
県が辞退者に理由を聞いたところ、「高齢や介護など、自分の健康状態を考慮した」が29件で最も多かった。家族との同居などの「復興住宅以外の住宅を確保した」は28件、出入りしやすい1階で室内に段差がない「優先住宅」から外れるなど「立地、間取りなどが希望と一致しなかった」が20件などだった。
復興住宅は、津波被災者向けと原発事故の避難者向けがある。県が国の交付金などを使って建設しており、原発避難者向けの予定数は計4890戸。優先住宅は高齢者からの応募が集中し、抽選で外れる人は多い。
阪神大震災の復興支援策を研究している木村玲欧(れお)・兵庫県立大准教授(防災心理学)は「入居で住民全ての要望に応えることは現実的に難しく、無理に利害調整を図れば混乱を生む。納得した上で入居してもらえるよう、申し込み段階で生活支援策の説明を尽くすなどの努力が必要だ」と指摘する。
県の担当者は、辞退が相次ぐ背景の一つに、避難者の迷いもあると推し量っている。仮設住宅に比べて復興住宅の設備は格段にいいが、避難生活の中でせっかく築いた人間関係やなじんだ生活環境から離れて一からやり直すことを迫られるためだ。
高齢の避難者を中心に「古里への帰還以外では、もう生活環境を変えたくない」「仮設から直接、帰還したい」との気持ちを抱えつつ、復興住宅への入居を申し込む人も少なくないとみられるという。県の担当者は「部屋選びの上で大きな問題がなくても、辞退してしまうケースもある」と説明している。