[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ただいまコメントを受けつけておりません。
脚は引きずっているが、前のように恥ずかしそうに歩いてはいない。どうどうとしている。
胸の中ではもやもやが巻いていたが、桃香は明るく声をかけた。
「慎ちゃん、専門学校行くんだってね。聞いたよ。すごいじゃない。次の目標が見つかったんだね」
「ねえさんが言ってた? おしゃべりだなあ。フットサル部の先輩達が仕事とスポーツ両立して楽しんでて、いいなあと思って。冬馬さんなんて、昼はデザイナー。夜はサッカー。そういうの、かっこいいし」
桃香はどきりとしたが、他の話題に切り替えた。
「紅茶、たくさんあるね。5種類くらい飲みたいよね。どんだけ味違うのかなあ。」
「違う種類頼んで飲み比べしよう」
顔を寄せ合い、メニューにずらりと並んでいる紅茶の種類を声に出して読む。ふたりはまわりから見ると仲が良い素敵なカップルだ。
「飲んだら、散歩しようか。で、ランチさ、ナポリタンだと、白いセーター汚しちゃうからさ。ケチャップ系は今度にしよう。ちょっと自由が丘の端っこのほうに歩いて行ってみない? 奥沢駅に向かう道に小さなフレンチとかちょこちょこあるんだよ。新しいお店もたくさんできたの」
「ok!」
陶磁のポットで出された異国のお茶はあたたかく、ふたりの距離をさらに縮めてくれる気がする。湯気の向こうに慎吾の嬉しそうな顔が見える。慎吾と一緒に異国を旅したら楽しいだろうなという思いがよぎった。するとそこに冬馬の顔がよぎる。背中にもたれかかってきた時の暖かさ。はじけるようなキス。桃香は紅茶のカップをじっと見つめる。言葉が消える。
慎吾が「どうかした?」とつぶやく。慎吾のはにかんだようなほほえみは、桃香の気持ちを惑わせる。男の子に対して言う言葉ではないが純粋にかわいくていとおしい。慎吾といれば慎吾が好き、冬馬といれば冬馬が好きなんて、ひどい女だと、自分が嫌になる。鮎子が怒るのは当然だ。
「あのさ、鮎子、なんか言ってた? 喧嘩…したんだ」
慎吾が驚いた顔で言う。
「そうなんだ。何も聞いてない。僕、夜中に帰るから会ってないんだ」
「そっか…」
「だいじょぶ?」
「うん、私が反省しなきゃいけないの。今度あやまる」
(続く)
【恋愛小説『自由が丘恋物語 ~winter version~』は、毎週月・水・金曜日配信】
目次ページはこちら
(二松まゆみ)