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マリクレール通りから住宅街の細い坂道を抜けて歩いた。
普通の民家の横にウェディングドレスがディスプレイしてある店がある。アメリカンポップなシャツを吊っている店もある。ユニークなイラストのカードがウィンドいっぱいに張り付いている店もある。
民家が何軒か続き、さすがにもう店はないだろうと思っていると間口が狭い雑貨屋が一段下がったところに存在している。本当に自由が丘は期待を裏切らない街だ。慎吾がさりげなく聞いた。
「クリスマスさ、バイト代で何かプレゼントしたいんだけど、リクエストある? あ、高いのはダメだよ」
「まじで? 嬉しい。うーん、手袋かな。この手袋おととしに買ったやつで、毛玉できてるんだ」
「よかった。それなら買ってあげられる」
「あ、もしできるなら…」
「なに?」
「鮎子とお揃いにしたいな。オソロの手袋で通勤したい」
「へえ、乙女だね。いいよ。ふたつ買ってひとつは姉貴に」
その時、慎吾が初めて桃香の手を握った。
「毛玉ついてるなら、はずせば? 僕があっためてあげる」
子供っぽいと思っていた慎吾が大人に見えた。手袋をはずして、ふたりは手をつないだ。かじかんだ指先に慎吾の体温があたたかかった。恥ずかしがり屋の慎吾は目が合うとフっと横にそらす。そこがたまらなくかわいらしい。
道の向こうからも手をつないだカップルが歩いて来る。ニット帽をかぶってお下げ髪をした女の子はこの前読んだ恋愛コミックに出てくる主人公のように見える。雑貨屋の前で立ち止まってワゴンの中を楽しそうに覗いている。珈琲カップを見ているようだ。
彼氏の方がお下げ髪をひっぱったり、肩を抱いたり、ほほえましい。桃香たちもあの恋人達の仲間入りをした感じ。恋するカップルに自由が丘はとてもやさしい。しかし桃香は綱渡りをしているような不安定な気持ちで自由が丘を歩いた。
(続く)
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(二松まゆみ)