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15号線をひたすらまっすぐ走り、車は工業地帯へ着いた。京浜コンビナート。
巨大な工場の群れに白いレーザービームのような灯りが点灯し、まるで宇宙の要塞だ。SF映画を観ているような無機質で不思議な景色だった。
「こんなところドライブしたの初めて。幻想的ね。停まって! ゆっくり見てみたい」
「いいよ。ちょっとマニアックな夜景だろ。ツァーとか組まれてて、意外に人気らしいんだけど。女の子でも好きかな、こういうの。デートっぽくはないけど」
「どうしてここ知ってるの?」
「俺、父親の影響でスターウォーズ系が好きだからさ。おやじ、フィギアとか持ってんだよ。小学校の頃から、ビデオも一緒に観てた。で、ここ、夜通ったとき、宇宙の基地みたいだって思ったんだ。クールな景観だろ」
「そうね。連れて来てくれてありがと。未来の世界にいるみたい」
道路の端っこに車を停めて、ふたりはまた高校の頃にタイムトリップした。図書館で大声で喧嘩して司書さんに怒られたこと、バスに乗り遅れた冬馬がかわいそうになってバスから降りて付き合ってあげたこと。
絵が得意な冬馬に似顔絵を描いてもらったけれど、あまりに似てなくて泣きそうになったこと。ふたりの共有できる思い出が泉のように湧き出てくる。「もしかしたら俺、告白はしてなかったけど、桃香の彼氏気分でいたんだと思う。思い込んでただけってところが情けないけど」
「私はあの頃、受験勉強しなくちゃって、自分なりに恋愛禁止のストッパーをかけてた」
「で、ストッパーがはずれて、大学で誰かと付き合ったんだったよな」
「そう、学部の先輩とね。趣味が合わなくてすぐ別れちゃったけど」
「で、次の相手が慎吾ってわけ? 俺は入り込む余地ないかな」
桃香はうつむいた。慎吾の名前が出て、ふと思い出してしまった。今頃、携帯ショップでどの機種にしようか悩んでるんだろうなと。慎吾の困った顔は大好きだ。
「冬馬、私わからない。慎ちゃんのことは大事。私がいないとダメになっちゃう気がする。でも冬馬のことも気になってしょうがない。こういうの浮気症っていうのかな」
「いいんじゃない。モテ子ってことで」
冬馬が桃香の髪の毛をチョコっと引っ張った。桃香も冬馬の前髪を引っ張り返した。冬馬が桃香の手を取り「冷たいな」と言って、ハアっと息を吹きかけた。暖かかった。冬馬はどんな時も自分を守ってくれる、昔からそうだったんだ。急に頼りたい気持ちになった。
ときめいた。と同時に手袋を買う約束をした慎吾の顔もちらついた。あの日、初めて手をつないでくれた恥ずかしがり屋の慎吾。それなのに、また冬馬がキスしてくれないかと思う欲張りな女心。その日、冬馬はキスをせず、桃香の手をギュっと握りしめただけだった。
(続く)
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作者:二松まゆみ