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都市部、地方を問わず、ロードサイドや住宅街など、日常生活の中で整骨院やマッサージ店の増加を肌で感じる方は多いのではないか。整骨院などの施術所に勤務する柔道整復師の数は、1998年の2万9087人から、2010年には5万8573人と約2倍に膨れ上がっている。その数に比例して、施術所数も約2倍へと増えている。開業率は約8割のまま変わっていない。
これだけ施術所数が増えているということから、業界の競争が激化している現状が推測できる。その中で黒字経営の施術所は、TKC経営指標によると、およそ4割だという。他業界に比較してITの導入が遅れており、経営改革が進まない業界といわれている。今回は、関西で整骨院を複数店舗展開するA氏に、整骨院業界の事情を聞いた。
●資格者急増、低価格での開業が可能に
–まず、現在の業界の事情を教えてください。
A氏 年々競争が厳しくなっているのが現状です。1つの町に整骨院が10~20あることも珍しくありません。しかし、集客力があるのは、都市部やビジネス街の一角といった好立地の場所に限られます。クイックマッサージなどの店舗も増え、少ないパイを奪い合っている状況です。
–整骨院がここまで増加した大きな原因はなんですか?
A氏 大きく分けて2つあります。1つは、国家資格である柔道整復師の資格を取得できる学校数の増加です。3年で資格を取得できるため、医師と違い、卒業後すぐに開業することも可能です。もう1つは、低価格での開業が可能となったことです。20年前は開業資金が最低1500万円は必要といわれていました。しかし、近年では簡易な設備投資での開業も可能で、規模にもよりますが、関西なら600万円程度とハードルが下がっています。
–開業の際、金融機関の資金援助は受けやすいのでしょうか?
A氏 新規参入は厳しくなっています。担保がない場合、よほど綿密な事業計画書をつくらなければ借り入れは難しいです。今後もこの傾向は続くでしょう。一方では、内装施工や設備のリース業者が出てきており、初期投資の額に関しては、ある程度の融通は利きます。
–閉店も多いと聞きますが、実際はいかがですか?
A氏 そうですね。金融機関の支援も少ないので、力のない店舗は淘汰されています。特に近年は、技術があるだけでは集客が難しくなっており、接客がモノをいう時代といえるでしょう。昔ながらの職人気質を持つ、本当に技術のある経営者のお店が閉店を余儀なくされているのは、業界の問題点だと感じています。
–経営で難しいのは、どういった点ですか?
A氏 施術の収入の7割は保険負担なので、お金回りが悪いことです。今はずいぶん制度も整いましたが、それでも入金までは3~4カ月程度の時間を要します。最低限、3カ月程度の内部留保金がないと、短期的な運営も難しいです。–他業種にも展開する経営者が多くいそうですね。
A氏 以前は、「開業すればベンツに乗れる」といわれていた業界です。特にチェーンや複数店舗を展開している経営者は蓄えも多いので、他事業に手を出しているケースも多いです。具体的には福祉施設の経営、飲食、美容、マッサージ店の経営などが挙げられます。実際に、私にもそういった誘いの声が何度も掛かりました。
●経営者の質の向上が課題
–整骨院が医療保険機関へ保険診療分の療養費を不正請求するケースがあると聞きますが、現在も不正は多いのでしょうか?
A氏 残念ながら、今でもそういった話はよく耳にします。厚生労働省のチェックがだいぶ厳しくなっていますが、不正を働こうとすれば、他業界に比べて簡単に実行できると思います。例えば、治療部位を実際より多くして保険点数をごまかす「水増し請求」、来院回数を実際より多くするなどの「架空請求」などがあります。このような不正は、露呈する可能性は極めて低いと思います。
–どのような場合に不正が発覚するのでしょうか?
A氏 同業他社や元従業員からの告発、もしくはお店に不信を抱いている従業員からの内部告発が多いでしょう。また最近は保険診療の内容が被保険者に確認がいくことが多いので、患者から問い合わせがあると調査が入ります。
–従業員の定着率は、どのくらいですか?
A氏 業界全体で見ると、定着率は芳しくありません。3年のスパンで4割程度は退職していきます。求人の募集をかけても、集まりにくいのが現状ですね。ここ数年は店舗数も増えているので、その傾向が顕著に表れています。社員全体に気を配らないワンマン経営者が多いことや、国家資格に認定されているとはいえ、業界全体の社会的な認知がまだ低いことが背景にあると思います。
–昇級・給与など、待遇面はどのようになっていますか?
A氏 雇われる側は、院長にならない限り、ほとんど上がりません。月の総支給額は20~25万円程度、院長になって30~40万円程度が一般的です。
–基本給のほかに、指名料などは支払われるのですか?
A氏 店舗によりますが、基本的には指名料はありません。施術の技術があれば指名される時代ではなくなってきています。評価の指標として指名数は考慮されますが、給与面に大きく反映されるという話はあまり聞きません。
–最後に、業界が良くなるために、何が必要となってくるとお考えですか?
A氏 経営者の質の向上に尽きます。どうしても利益第一主義で経営を行っているのが現状で、人を育てるという意識が希薄です。ただ、この状況が続けば、「柔道整復師になりたい」と考える人の絶対数が減ってしまうでしょう。そうなってくると、競争のレベルも低いものとなり、お客さんの足は間違いなく遠のいていきます。一人ひとりの経営者が、人を育てる意識を持ち、最適なサービスを提供する。当たり前のことですが、店舗数や整復師の数が膨れ上がっている今だからこそ、初心に帰り、イチから見直す時期に来ているのではないでしょうか。
–ありがとうございました。
(構成=編集部)