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オーストラリア南部のビクトリア州政府が2013年から14年にかけ、増えすぎたコアラのうち686頭を殺処分していたと豪紙が報じた。
同州のケープオトウェイ地域では、約8千頭のコアラが過密状態で生息しているため餌になるユーカリの葉が不足し、全体が餓死する恐れがあった。そこで専門家の意見を聞いた上で、一部個体に致死注射を行なったのだという。ただし、この処分は極秘裏に行なわれ、今回の報道で初めて明らかにされた。
コアラが増えすぎ? 仮にそうだとしても殺したりせず、コアラが生息している別の地域や州、あるいはコアラの受け入れを希望する海外の動物園に移せばいい話では?
だが、事はそう簡単ではないようだ。日本の動物園のコアラ飼育担当者A氏が語る。
「ビクトリア州のコアラはヨーロッパからの入植者が毛皮目的で乱獲した結果、20世紀前半にほぼ絶滅しました。その後、保護機運が高まり、近隣の島で繁殖していた個体を再導入したのですが、土地開発などでユーカリ林の面積が減り、分断されたところへ人為的に住まわせたので、逆に過密状態に陥る地域ができてしまったのです」
そして、国全体で見れば、コアラは絶滅の危機に瀕しているものの、他地域や他州に移すのにはリスクがあるという。
「ユーカリには数多くの種類があります。コアラはそのうちのわずか数種類しか食べず、さらにビクトリア州など南のコアラと、クイーンズランド州などの北のコアラで食べる種類が違う。同じ州に住むコアラでさえ、餌のユーカリの種類が異なる場合があります。そのぐらいユーカリの種類に対する強い好みがあり、しかも嗜好(しこう)は一生変わりません」(A氏)
生えているユーカリの種類が違う他地域、他州へ簡単には移せず、ましてや海外の動物園となると、コアラが好むユーカリを現地で育てられるかの問題もあり、なおさら難しいというわけだ。
では、今回の殺処分に対し、当のオーストラリア人はどんな感情を抱いているのか。同国出身で大阪弁ペラペラのお笑い芸人、チャド・マレーン氏に聞いた。
「コアラって近くで見たら意外にケモノケモノしてるし、汚いし、起きてる時は凶暴やったりするんです。でも、僕らにとってはやっぱり“国の顔”で、特別な愛情を持ってる動物。そやから『殺処分』って見出しが目に入った時、何してくれてんねんって思いました。
けど、よくよく記事を読んでみると、他にどうにもできんかったんやろなあと。ただ、ちゃんとした理由があるんなら堂々とやればいいのに、こっそりやってたってゆうんがセコくて印象悪い。それが地元の人の平均的な感想でしょうね」
しかし、オーストラリアにおいて、今回の報道はさほど話題になっていないのだとか。
「ペットの犬に噛(か)まれたり、道路で車にひかれたり、住宅地のプールに水を飲みに来てそのまま溺れたりして死ぬコアラが、毎年何千頭とおるんです。国内ではそっちのほうが大きな社会問題になってるんですよ」(マレーン氏)
結局、コアラを絶滅の危機にさらしているのは、昔も今も人間だってことのようで…。