【お金は知っている】2月下旬は中国の旧正月(春節)休暇。東京・銀座などに買い物客がどっと押し寄せる。人民元決済用カード(デビットカード)で高額商品を買いあさる。デパートや電器店はほくほく顔だろう。
日本などへの旅行客の大半は中間所得層で、高利回りの信託商品や不動産値上がり益でフトコロを肥やしてきた。ところが、最近の中国景気は事実上のマイナス成長が続いている。上海などに進出している外資系企業は現地の大気汚染に加えて人件費の高騰もあって、本国からの人員を引き上げ、現地事業を縮小するケースが相次いでいる。
その影響で、外国人が借りる高級マンションが空室になる。不動産相場をかろうじて下支えしていた高級マンション価格が下落に転じると、それこそ「不動産バブル崩壊」になりかねない。
そんな不安を多くの中国人や投資家が抱いているのだろう。富裕層は海外の不動産を買いあさっている。華人社会という点で中国人に人気のあるシンガポールはマンション相場が急騰し、1平方メートル当たりの東京都心のマンションの相場の数倍に達する。東京の一等地のマンションは中国の投資家にとっては格安で、新築物件には中国系からの引き合いが活発だ。
以上のような日本の「チャイニーズ・ブーム(景気)」は、中国本土の不況と表裏一体になっている。そんな変則ブームは長続きするのだろうか。
手元に、中国の国際収支データがある。分析してみると驚いた。中国からの資金流出は加速しており、昨年1年間で約50兆円に上ると推計される。項目別のデータが公表されている9月までの1年間で18兆円の現預金が流出した。しかし、このほかに正体不明の資金が22兆4000億円流出している。
中国では1人当たり年間5万ドル(約590万円)の資金を海外に持ち出せるが、その最高限度で計算すれば約300万人分に相当する。正体不明資金や1人当たりの持ち出し額を低く見積もれば、億単位の人々が資金を海外に移しているとみてもおかしくない。北京当局は外貨持ち出しを制限していても、実際には国民多数が合法、非合法で巨額の資金を海外に移している。その傾向に今、拍車がかかっている。
資金流出の加速は何を意味しているのだろうか。習近平国家主席は汚職高官を幅広く摘発し、不正蓄財を差し押さえているので、その分、闇ルートの資金流出は一時ほどの規模ではないだろう。だが、その裏では、膨大な数の中国人が国内はヤバイと逃げにかかっているのだ。
資金流出がこれ以上加速するようだと、北京当局は金融引き締めや人民元相場を切り上げるしかないが、それは事実上マイナス成長の景気をさらに悪化させる。逆に、国内景気を良くするためには、利下げして元を切り下げるしかないが、今度は現預金を始め資本逃避が進む。習主席はどうするか、見ものだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)