東京・渋谷区は同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、その証明書を発行する条例案を3月の区議会に提出する。
可決した場合、4月1日に条例が施行される。証明書の発行は来年度中のスタートを目指すという。
そもそも、この証明書で認められる「結婚に相当する関係」とは何か? 渋谷区役所の総務課長はこう話す。
「この証明書は法的な婚姻関係を認めるものではありません。あくまで『渋谷区としては認める』というものであり、法的な手続きが必要となる財産の相続や税金の免除などに関しては一切無効です」
では、同性カップルにとって、どんなメリットが?
「例えば、渋谷の区営住宅の入居条件は『事実上の夫婦』までは認めていましたが、今後は同性カップルにまで拡大する。ほかにも、同性のパートナーが大病を患い、見舞いに行こうとしても、病院で『親族以外は面会謝絶』という状況に陥った時、証明書を提示すれば面会できる、といったことが考えられます。
条例の趣旨に反する行為があった場合は、事業者名を公表する規定も条例案に盛り込む方針です」(総務課長)
だいぶ限られたシチュエーションでしか効力を発揮しなさそう…。だが、
「それだけでも十分にありがたいわよ!」
そう言うのは、新宿二丁目の住人でゲイの女装家ブルボンヌ氏だ。
「数年前、当時のカレがひどい病気にかかって、ICU(集中治療室)に入ったの。すぐに病院に向かったけど、ICUでは家族以外の面会ができないのが普通。カレに会えないことは覚悟していたわ。
ところが、カレが家族にゲイをカミングアウトしていたらしく、私のことも知っていた。それで、ご両親が『恋人だから入れてあげてください』って病院を説得してくれたの! そのおかげで、カレと面会できたわ。
でも、これはラッキーなケースよ。同じようなシチュエーションでパートナーの死に目に会えなかった人はたくさんいる。でも、証明書があれば、そんな不安はなくなる。嬉しいわ」
ちなみに、そのカレは一命を取りとめ、今はブルボンヌ氏のお店で働いているそうだ。
ところで、なぜこの条例が“渋谷区”で提案されたのか?
そこで渋谷区議の長谷部健氏に話を聞いてみた。同氏は2012年6月に行なわれた区議会で、「パートナーシップ証明書」の発行を初めて提案し、今回の条例案提出でも中心的役割を務めている人物だ。
「一緒にボランティア活動をしているゲイの知人がいるんですが、彼や彼の仲間を通してLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略称)の苦しい実情を知り、何かできることはないかと考えました。そして、思いついたのが『パートナーシップ証明書』だったのです」
長谷部氏は、渋谷に対してある危機感を持っていた。
「『渋谷系音楽』『渋カジ』など渋谷はかつて『文化の発信地』でした。でも近年は、渋谷発の文化が少なくなっている。街から活力が失われたと感じていました。そして、デザイナーやメイクなどアーティストとして活躍されている方がLGBTだったというケースは珍しくないですよね。LGBTには感性が豊かな方が多いんです。
LGBTを始め、多様な人材が集まれば、渋谷は再びクリエイティブな街になれる。そして、元から渋谷に住んでいたLGBTの方が大手を振ってこの街を歩けるようしたい。この条例案は、その一歩になると信じています」
再び、渋谷が文化の発信地になってほしい――。「同性カップル証明書」の条例案には、そんな思いも込められていたのだ。
■週刊プレイボーイ10号「渋谷区『同性カップル証明書』新宿二丁目の評判は?」より(本誌ではさらに同性愛者の聖地とされる新宿2丁目の反応なども紹介!)