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積極的平和主義などと称して「戦争のできる」国づくりへひた走る安倍晋三首相にとって、この人ほど”いなくなって欲しい”目の上のタンコブはいないだろう。柳澤協二氏、68歳。東大法学部卒で1970年に防衛庁(当時)入庁。審議官、局長、官房長などを歴任し、2004年4月から約5年半、小泉→安倍→麻生と3代の政権に渡って危機管理・安全保障担当の内閣官房副長官補として官邸の参謀役を務めたバリバリの元防衛官僚だ。この間に自衛隊のインド洋海上補給支援活動やイラク派遣などの立案にも携わった。テロと戦争のプロである。
そんな”左翼ではない”(というか身内だった)柳澤氏が、安倍政権の安保政策を徹底批判しているのだ。昨年4月に『亡国の安保政策――安倍政権と「積極的平和主義」の罠』(岩波書店)を出版したのを皮切りに、新聞・雑誌等のインタビューやテレビ出演はもちろん、全国各地を回っての講演会を精力的にこなしている。動機は、「かつて政府の中枢にいた人間の使命として、『おかしい』と思ったことは国民に伝えなければならない」からだという。今年1月には新著『亡国の集団的自衛権』(集英社新書)を出したばかりだ。
長年、日本の防衛の最前線で実務を担ってきた人だけに、その筆致は冷徹で異論を挟む余地がない。これを読むと、いま国会や与党協議で議論されている防衛論がいかに机上の空論であり、安倍首相の言う「積極的平和主義」が「空想的平和主義」なのかがよくわかる。
例えば、集団的自衛権が必要な根拠として、同盟国であるアメリカと中国の間で軍事衝突が起きたとき、中国に奇襲された米軍の艦艇を自衛隊が守らなくていいのかという主張があるが、そのためにいったいどれくらいの兵力が必要なのかの議論がまったくない。
柳澤氏の分析では、現状の4個護衛隊群では全然足りず、最低あと2個護衛隊群が必要となり、西太平洋までの距離の長さを考えれば、ミサイルや弾薬の備蓄もいまの数倍に増やさなければならないという。
さらに言えば、アメリカの船を守るために自衛隊を出したら肝心の日本の防衛が手薄になり、その分の補強も必要になる。いずれにせよ、大規模な軍備の増強と防衛費の増加が想定されるわけだが、財政的裏づけに関する話がいっさいない。ちなみに、備蓄増が必要な迎撃ミサイルだけでも1発数千万円もする。安倍首相は、集団的自衛権行使を認めればカネが湧いて出てくるとでも思っているのだろうか。…