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4年経っても広がり続ける震災後の“心霊伝説”目撃の裏にあるのは

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4年経っても広がり続ける震災後の“心霊伝説”目撃の裏にあるのは

4年経っても広がり続ける震災後の“心霊伝説”目撃の裏にあるのは

 前回、配信した「被災地でいまだ囁かれる心霊現象、本当にあった震災の怖い話」や「NHKも取り上げた被災地の“心霊体験”はまだ終わっていなかった」が反響を呼んでいる。

今も被災地で広がり続け、終わらない幽霊譚(たん)。その背景には一体、何が…。

津波被害の影響か、それとも東北の地域性、精神性にも由来するのか? 識者たちが「被災地の幽霊」の正体に迫った。

■「みちのくの民は“彼ら”と交流する道を選択をした」

「被災地で幽霊話がこれほど広まったのは、被災規模の大きい津波災害の影響なのかもしれません」

日大・中森教授は、被災地で行なった幽霊話に関するアンケート調査の結果に、そんな感想を持ったという。

「これまで私が調査してきた阪神・淡路大震災や新潟県中越地震など、津波災害のなかった震災では幽霊話はほとんど出ませんでした。

東北の太平洋沿岸は、地震が発生して30分から1時間後に津波に襲われました。『その間に大切な人を助けることができたのではないか…』という後悔の念が、被災地の方々に幽霊を見せているのかもしれません。また、津波は一度に大勢の行方不明者を出しました。『帰ってきてほしい、夢や幻、幽霊でもいいから会いたい』という強い思いが、心に作用している可能性もあります」

山形市在住の怪談作家・黒木あるじ氏は、これまで100人以上から被災地での奇妙な体験を聞き、「震災怪談」を手がけてきた。その黒木氏が「被災地での幽霊との遭遇」についてこう語る。

「それは東北だからです。戦後間もない時期まで飢饉(ききん)や災害、疫病で多くの人が亡くなり、今もその記憶が残っている。東北では死者が身近な存在なんです。青森・恐山のイタコが行なう口寄せ(死者の魂を呼び寄せる儀式)に代表されるように、死者とのコミュニケーションの回路がいくつもある。

西日本では伝統的に死者の霊が出たら祓(はら)って鎮(しず)めますが、東北ではイタコのような巫女(みこ)が死者とのコミュニケーションを図る。この地では、死と折り合いをつけてきた文化や風土があるんです」

「だから…」と黒木氏は続ける。「今回の震災でも、みちのくの民は“彼ら”を遠ざけずに交流する道を選択したのだと思います」

彼らーーとは、もちろん幽霊のこと。親しみがこもった表現だ。3・11で岩手県釜石市にある母方の実家が被災した黒木氏は、その10日後、被災した親戚の高齢女性から“彼らとの交流”のおかげで命拾いしたという不思議な話を聞いたという。

あの日、いつものように彼女が台所仕事をしていると、外から誰かが「オーイ」と呼ぶ。なんだろうと思って家を出ると、坂道の先の竹やぶに生前の夫そっくりの男性が立っていた。その姿を追って竹やぶに着くと、姿は消えていた…。

次の瞬間、大きな揺れがきた。腰が抜けた彼女は竹にしがみついてなんとか難を逃れたが、やがて海からやってきた波が自宅の1階部分をさらっていったという。

「『夫の声を聞かなければ、私は波にのまれたかもしれない』と彼女は感謝していました。同じように『亡くなった肉親や行方不明の友人が夢枕に立った』という話を数多く聞きましたが、穏やかな口調で懐かしそうに話す人が多かった。

それを聞いて気づいたんです。怪談はただの怖い話じゃない。生者と死者がコミュニケーションを図る物語だということに。だから僕は怪談実話を通して被災地の姿を描いていきたい」

■横断歩道の幽霊が増えていった理由

もともと死者が身近な存在である東北の地域性、精神性は昔から受け継がれてきたものだ。日本民俗学の原点といわれる柳田國男(やなぎたくにお)の『遠野物語』には不思議な話が数多く収録されているが、地名や人名はすべて実在するものだというから、民話というよりも怪談実話に近いものなのかもしれない。

その『遠野物語』の第99話にも幽霊話は出てくる。1896年の明治三陸地震の津波で妻を亡くした福二が、その妻の霊に出会うという話だ。

「第99話以外にも明治三陸津波の後は、幽霊話がごろごろしていたと思います」仙台市の出版社「荒蝦夷(あらえみし)」代表の土方正志氏は言う。

「東北は、昔から自然が近かった。人間の手が届かない不思議な物語が生まれる土地だったんです。笑えるホラ話や誰かから聞いたしんみり泣ける話を、皆が尾ひれをつけて繰り返し語り継いできた。それが実話か作り話かは大した問題ではありません。今、東北で語られる怪談も、東北人が大災害をどう受け止め、表現したかを知るドキュメントなんです」

「荒蝦夷」は『遠野物語』の刊行100年にあたった震災の前年から、東北にまつわる怪談を集めて盛り上げようと「みちのく怪談コンテスト」を進めてきた。

だが、その最中、3・11で被災。それでもプロジェクトを続行し、13年夏に『みちのく怪談コンテスト傑作選2011』を刊行した。応募作の7、8割が震災をテーマにした怪談だったという。

「実話か作り話かは大した問題ではない」と語る土方氏だが、彼がある沿岸の町で聞いたという、ホラ話にも似た目撃談に幽霊の意外な正体があるのかもしれない。

高台に向かう、とある横断歩道に幽霊が出た。やがて幽霊がふたり、3人、4人…と増えていったという。すると、その幽霊たちが交通事故に遭わないようにと他県から応援にきた警察官が交通整理を始めたというのだ。ここで、話し手が「地元の警官じぇねえから、幽霊って気づいてねえんじゃねえか」とオチをつけるのだとか。

「おそらく、初めに横断歩道で幽霊を見たという地元の人がいたのでしょう。仮にひとり目の幽霊が“3丁目のAさん”とする。すると、周りの親しい人たちが『Aさんがいたんなら“4丁目のBさん”も“隣町のCさん”も一緒にいるはずだ』と、尾ひれをつけていったのではないか」

被災地で目撃される幽霊は、肉親であり、友人であり、近所の人たちである。それこそが怪談を通した慰霊や供養の形なのかもしれない、と土方さんはいう。

「死者を思いやる親しい人たちの無意識が幽霊を増やしていったのではないかーーそんな気がするんです」

(取材・文/山川 徹)

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