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――地下アイドルの”深海”で隙間産業を営む姫乃たまが、ちょっと”耳の痛~い”業界事情をレポートします。
こういう連載をしているので、「地下アイドルの枕営業ってどうなんですか?」と、よく聞かれます。「どうなんですか? って、なんですか?」って感じなのですが、恐らく、予想されている答えよりも、現実はずっと複雑です。
ライブ終演後に楽屋でグループのメンバーと談笑しつつ、キャリーバッグに衣装を詰め込んでいると、メイク道具が散乱した化粧台の上で彼女のケータイが鳴りました。着信は母親からで、内容は父親の病気を知らせるものでした。
大学生の頃に遊び感覚で始めた地下アイドルの活動も、楽しいという感情だけであっという間に過ぎ去り、気がつけば20代も後半にさしかかっていました。年齢的にも、うっすらと頭に浮かんでいた「引退」の文字が、電話越しの母親の声とともに鮮明になっていくようでした。
活動にかまけて就職しなかった彼女は、居酒屋のアルバイトと、事務所からの微々たる給料でひとり暮らしをしていましたが、ギリギリの生活でも夢を持てるのは若い時だけ。これから訪れるであろう介護生活を考えると、金銭的にも母親だけに頼れないことはわかりきっていました。引退して実家に帰り、就職して、貯金しなくては。しかし大好きな父親の大病を前にしても、まだ地下アイドルに惹かれている気持ちがありました。
不安な気持ちを誰かに聞いてほしかったのもあり、ライブ後の足ですぐに事務所へ向かいました。汗だくの彼女が到着すると、夜遅くまで働いていた社長は、手を止めて話を聞く体勢をとってくれました。自分の考えを整理するように事情を説明した後、引退する考えを伝えると、「うーん」と考え込んだ社長は、彼女の気持ちを見透かしたように「うちの事務所の社員になるか?」と提案してきたのです。
社員になる。それは彼女が考えてもみなかったことでした。ちょうど、たったひとりしかいない正社員の退職が決まっており、事務所にある彼の部屋に住み込んでもいいと言います。しかも給料を聞くと、所属している地下アイドルに支払われている金額より何倍も高かったのです。これなら家賃もかからず、居酒屋のバイトをやめても、まだ実家に送金することができます。何より、形は変わるけれど、地下アイドルに携わることができるのです。実家に帰って両親のそばに居てあげられない申し訳なさもありましたが、いまよりも頻繁に帰省することを胸に誓い、社長の提案を受けました。…