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[写真]愛知県刈谷市にあるデンソー本社ビル。世界第2位の自動車部品メーカーだ(photo by At by At)
自動車は数万点の部品からなる複雑な工業製品だ。とてもではないが自動車メーカーだけではその全ては作れない。だから、昔から様々な部品が外部のサプライヤー(部品メーカー)で作られてきた。一番分かりやすいのはタイヤだ。世界中の自動車メーカーでタイヤを内製している会社は1社もない。当然タイヤメーカーから部品として買うのだ。
この他にもよく見るとサプライヤーのロゴが入っているヘッドランプや発電機、ガラス、メーターなどはイメージもしやすいだろう。しかしそういうロゴが全く目につかない部品もある。シート、ダッシュボードなどの内装部品や、クルマの心臓とも言えるエンジンですらサプライヤー性の部品だらけだ。ピストンやピストンリング、バルブ、プラグなど多くの部品がサプライヤーの製品だ。
シャシーに使う鉄板も鉄鋼メーカーから購入している。鉄板は部品とは言えないと思う人もいるだろうが、最近の鉄板はクルマになった時、強度が必要な部分の厚さを増したり予め型抜きされていたりと言ったこともあり、料理で言えば惣菜に近い状態で納品されたりもするのだ。こうした半素材レベルの話まで含めれば自動車メーカーはサプライヤーから調達した部品を組み立てているだけだとも言える。
汎用部品によるコストダウン
1990年代の中頃までは、部品の内製に拘るメーカーもあった。外部から調達するにしても、自社専用の部品を作らせる方法もあれば、そのサプライヤーが作っている汎用の部品を買う方法もある。あるいは汎用品をカスタマイズする方法もあるだろう。簡単に言って汎用品は生産ロットが大きいので価格が安く、専用品は全く逆の構図で高い。カスタマイズはその中間。高くても専用品にしたい理由は、商品の差別化だ。設計要素に対する自由度は当然専用品の方が高くなるから、価格の制約さえなければ純粋に性能を上げやすい。それが数万点も集積されれば、クルマになった時の品質感の差となって現れる。
そういうことに最後まで拘っていたのはメルセデス・ベンツで、年産数十万台しか作らない車種にわざわざ専用の部品を設計して内製していた。例えばステアリングギアボックスだ。一台のクルマにひとつしか使わないステアリングギアボックスの場合、自社製ではせいぜい数十万個だが、汎用なら少なくとも数百万個、多ければ千万単位になる。桁がひとつかヘタするとふたつ違うわけだから、開発費や生産設備投資の回収を考えた時に価格的に勝負になるわけがない。汎用部品は驚くほど安い。
先ほどの品質感の話の逆で、こうした部品価格が数万点分積み重なれば、クルマの原価に多大な影響を与える。品質感を取るか、コストを取るか、その選択肢は時代の流れと共にコストに傾いて行く。グローバル化の加速と共に、売価でも利益率でも汎用部品に頼らないと戦いは厳しくなり、自動車メーカーは勝ち残るため、部品調達価格を抑える手段として、サプライヤーを重用して行くことになる。
下請け工場から研究開発機関へ
しかし、2000年代に入ってからは、その構造が激変していく。サプライヤーは単に安く使える下請け部品屋と言う存在ではなくなった。ではどう変わったのか?
現在のサプライヤーは、メーカーが開発したクルマの図面をもらってただ部品を作るのではなく、システムそのものも開発している。例えばBMWが鳴り物入りで打ち出した「バルブトロニック」はコンチネンタル社が開発したアクチュエーターシステムがキモだ。つまり新型車の目玉技術の根幹がサプライヤー開発の技術という時代に入ったのだ。
その他にも、多くのメーカーのディーゼルエンジンに使われる「ピエゾインジェクター」はデルファイが、フィアットの油圧バルブ駆動機構「マルチエア」はシェフラーが、ディーゼルエンジンの「コモンレールシステム」はデンソーが開発した。もちろん全ての技術がメーカーと関係なくサプライヤー独自開発というわけではない。共同開発することもある。しかし、こうしたシステムがサプライヤーの商品であることから目を背けてはいられない。
それだけで驚いてはいけない。メガサプライヤーのシステム製品は、ハイブリッドシステム、プラグインハイブリッドシステム、回生ブレーキ、衝突安全ブレーキ、自動運転制御などの最先端システムや、トランスミッション、インジェクションや排気マネージメントなど基幹技術まで書き切れないほどあり、エンジン変速機などのパワートレイン、車両制御(VSA)、メーター(UI)、安全装備系などあらゆる部分に及んでいる。
自動車メーカーが新型車に、車両ダイナミクス制御や衝突軽減ブレーキを含む最新のブレーキシステムを装備したいとして、それを自社で開発する必要はもはやない。お金を持ってメガサプライヤーに行けばいい。彼らは手持ちのシステムを自動車メーカーの要求に合わせてカスタマイズし、部品を供給してくれる。
自動車メーカーとサプライヤー間のビジネス構造が根本的に変わったのだ。メーカーは自社設計のクルマの部品をサプライヤーに作らせるのではなく、サプライヤーが研究開発したシステムを採用して商品の核に据えるのである。むしろサプライヤーが「わが社の新製品の○○を採用すれば、御社のクルマがこんなにすごくなりますよ」と売り込みに行く。かつてサプライヤーの汎用部品を使うことは品質感の失墜とセットになっていたが、いまや逆である。華やかなサプライヤーのシステム商品を買うことでクルマの商品力が上がる時代になっているのだ。
例えば中国のあまり技術を持たないメーカーが、ボッシュからプラグインハイブリッドのシステムを買えば、突如プラグインハイブリッドモデルをカタログに乗せることができることになる。
独ボッシュとデンソーがビッグ2
[図表]世界の主な自動車メガサプライヤー
もちろんサプライヤーもそれをビッグビジネスに結び付けて行く、例えば前述のコンチネンタルは、ブレーキやシャシー制御システムの開発を行う時、傘下のコンチネンタルタイヤを基準に設計する。だから完成したクルマには全車当然の様にコンチネンタルのタイヤが装着される。
タイヤを売り込むために競合社と価格競争する必要も、営業が手練手管を尽くす必要もない。開発の請負いイコールタイヤが売れるに直結する。2000年代に入ってからOEMタイヤのシェアでコンチネンタルが気を吐いている理由はそこにある。タイヤ業界のビッグ3であるミシュラン、グッドイヤー、ブリヂストンはほぞを噛む想いでいるだろうが、同じ戦い方はしたくてもできない。
さて、こうしたメガサプライヤーはいくつくらいあるのだろうか? 自動車メーカーと違って、なかなか名前が出て来ないからわかりにくいかもしれないが、それでもトップの数社は誰でも聞いたことがあるはずだ。
ナンバー1はドイツのボッシュだ。ナンバー2は日本のデンソー。この2社が他を引き離してビッグ2を形成している。少し離れてドイツのコンチネンタルとシェフラー、アメリカのデルファイとビステオンがある。デルファイは元GMの一部門、ビステオンは元フォードの一部門だ。これにカナダのマグナ・インターナショナルを加えたあたりがメガサプライヤーと言えるラインだ。
国内で、メガサプライヤーとまではいかないが、ある程度システム的な展開が出来るサプライヤーは、富士通テン、日立オートモーティブ、ケイヒン、ミクニあたりだろう。
「垂直統合」と「水平分業」
モノづくりにおいて「日本は垂直統合型で他国は水平分業型」ということはよく言われてきた。日本だけが特殊であるような言い方には問題があると思うが、実際にそういう例はいくらでも挙げられる。自動車メーカーで言えば、日本はメーカーを頂点にサプライヤーが下請けとしてピラミッドを構成して、縦軸の中で製品が作られる。
対して、クルマに関して言えば欧州では、サプライヤーが様々な汎用製品を作り、メーカーは製品企画を行ってサプライヤーの製品を組み合わせて商品化する。場合によってはその組み立てすら外注化してしまう。これは工場を持たない方式で「ファブレス化」と言われる。クルマの場合は例が少ないが、ファブレス化の世界で一番有名な例は米国アップル社のiPhoneだろう。
メーカーのもう一つの重要な仕事は製品の販売だ。つまり時間軸でみて一番上流にある製品企画と一番下流にある製品販売のみを行い、かつて製造業の核であった生産は外注化してしまう。実際企業に利益をもたらすのは上流と下流であって、真ん中は大して利益を産まない。この段階ごとの利益幅の厚さを表す言葉としてスマイルカーブという言葉がある。ちょうどスマイルマークの口の形に口角に当たる両サイドが上がり、真ん中が落ち込むからだ。
テレビメーカーの凋落がまさにそこにあった。海外のメーカーは画質の追求をほどほどに切り上げ、サプライヤー製品を安価に入手することで価格競争力をメインにした。そうして浮かせたリソースを商品企画と販売に集中したのだ。対して、日本のメーカーは高画質に拘って自社工場で部品を作り続け、多額の過剰投資に押し潰されて沈んで行ったのだ。結果を見れば後のリストラで、その虎の子の最新工場がサプライヤーに買い叩かれ、敵に塩を送ることになった。
現在の自動車産業が直面しているのが、まさにこの水平分業の時代にどう向き合うかという課題なのだ。折りしも欧州でディーゼルエンジンが次世代パワートレインとして急浮上した。そこに欧州自動車産業の戦略あるいは謀略の様な要素があるにせよ、一度現実化してしまった以上、日本のメーカーもそれに対応しないわけにはいかない。
ところが、日本は石原元都知事のパフォーマンス以来、乗用ディーゼルに対して市場が極めて閉ざされてきた経緯がある。急にディーゼルを作れと言われても技術は蓄積なのでそう簡単に垂直統合の中で処理しきれない。メーカーにもサプライヤーにも技術が無いからだ。
こうした中でメガサプライヤーのエンジニアリングを取り入れる流れが急浮上した。ディーゼルシステムの丸投げである。2004年頃だろうか、ボッシュが欧州製のディーゼル車を何車種も日本に持ち込み、実質的なメディア試乗会が開かれたりしたことがあった。当時BMWなどの大排気量ディーゼルに触れてその性能に驚いたものだ。思えばあれは日本の自動車メーカーに対するアピールの狙いが大きかったのだと思う。こうして、ディーゼルをきっかけに日本のメーカーもメガサプライヤー時代の流れに加わった。
後半では、メーカーとサプライヤーの力関係に加え、研究開発のみを行う技術会社についても話をしてみたい。
(池田直渡・モータージャーナル)
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