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経済成長が本格化する1960年代初め、自宅での家族のだんらんなど、私生活を優先する「マイホーム主義」という言葉が流行した。
「マイホーム神話の生成と臨界」という著書のある社会学者の山本理奈さんは「都市部を中心に急増した核家族が住宅を購入することで、土地や建物だけでなく、家庭の幸せも手に入るというマイホーム神話ができた」と話す。
賃貸アパートを振り出しに、マンションを経て、最後は郊外に庭付き一戸建てを買って、上がり――。73年の正月の新聞に、そんな内容の「住宅すごろく」が掲載された。当時、都市部を中心に多くの人が、すごろくの「上がり」を目指した。宅地開発が盛んになり、地価も上昇。住宅を所有することは、資産を形成する手段でもあった。
そんなマイホーム神話も91年にバブル経済が崩壊すると、かげりが見え始める。千葉大学教授の小林秀樹さん(住環境計画)は「90年代に入ると、世帯収入が下がり、景気の先行きも不透明になる中、多額のローンを抱えて家を所有することへの不安が大きくなった」とみる。
一つ屋根の下で暮らす家族の構成も変わった。国立社会保障・人口問題研究所によると、夫婦と子どもだけの世帯が、全世帯に占める割合は、75年の42・5%から、2010年に27・9%になった。一方、晩婚化などの影響で単身世帯は1975年以降増え続け、2010年に3割を超えた。高齢者の一人暮らしも増えている。
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近年は、家族を抱える世帯でも賃貸を選択するケースが増えている。総務省の住宅・土地統計調査によると、30代と40代の持ち家率は、1973年から2013年にかけて48%から39%へ、69%から59%へそれぞれ落ちている。
人材育成講師、伊藤寛子さん(37)も賃貸を選択した一人だ。現在、東京都内の賃貸マンションに夫と長女の3人で住んでいる。そこから今年4月には、千葉県松戸市の賃貸住宅「みかんハウス」へ住み替える予定だ。全9戸の集合住宅で、入居者がキッチンやトイレ、浴室を共用するシェアハウスだ。
伊藤さんはボランティアで始めた地域活動で、人と人のつながりの大切さを実感。知人の紹介でこの物件のことを知った。「隣人と交流しながら暮らせる点が楽しそうで、子育てにもいい影響があるはず。それに賃貸には、生活の変化に合わせて住み替えられる自由さもありますから。家を買おうと思ったことはありません」と伊藤さんは話す。
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生活の変化を受け、賃貸住宅も住み手の趣味などに合わせて多様化している。若者向けが多かったシェアハウスでも、多世代が住める物件やシングルマザー向けの物件などが出てきた。
トイレなど家の一部を他人と共有することは煩わしいこともある。しかし、そうすることで住民同士がつながり、地域にも開かれていく。それがシェアハウスの大きな魅力になっている。
伊藤さん一家が住み替えるみかんハウスには、地域住民と交流できるスペースが設けられている。今年1月にはそこで近隣の人も招いて餅つきを行ったばかり。オーナーの川西諭さん(43)は上智大学経済学部教授で、地域活性化を研究している。「一人暮らしだけでなく、家族暮らしでも地域とのかかわりがない人が多い。そうした人たちを結びつける場としての住宅にしたかった」
現代の「住宅すごろく」に誰もが目指す「上がり」はなくなった。多様化する暮らしを柔軟に受け止めながら、地域に開かれた拠点として賃貸住宅が新たな役割を担い始めている。