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大きな地震のとき、壁に飾っていた絵が落ちてフローリングに穴が開いた、冷蔵庫の上のトースターが落下してキッチンフロアに傷がついたなど、フロアや壁紙、ガラスなどの破損はよくある現象です。ではその修理代は、また、被害が大きて部屋が使えなくなったときはどうなるのでしょうか。
「快適で安全な一人暮らし」をテーマに活躍する不動産アドバイザーで宅地建物取引主任者である穂積啓子氏にお話を伺いました。
■自然災害での破損は、貸主が修理回復する
――賃貸住宅の場合、地震が原因でフローリングなど部屋のどこかを破損した場合、修理代は誰が負担するのでしょうか?
穂積さん:地震だけではなく、台風や雷、大雨などの自然災害による被害の場合は、修理代は全額、貸主が負担します。
借り主の故意や過失ではなく、借り主の責任ではないことが原因で破損した場合は、民法で「貸主に修理義務がある」と定められています。
――借り主と貸主の間でトラブルになるという話も耳にします。
穂積さん:借り主が「貸主に義務がある」ということを知らない、貸主がそれに便乗して修理代を払うように迫る、といった事例はあるようですが、それは違法です。
借り主は、「自分で修理せねば」などと思い込まず、貸主や管理会社、仲介時の業者などに相談してください。
――被害が大きくて、貸主が修理できないことはありませんか。
穂積さん:建物の補修が難しくて居住もできなくなった場合は、賃貸借契約は自然消滅となります。その場合は、借り主による「原状回復等の義務」ももちろん解除されます。契約時に支払った敷金や、保証金の返金率分は全額返還されます。
また、「1室だけが使えなくなった」、「風呂場は使えないがほかの部屋は使える」という場合は、貸主は使えない部分の家賃を減額する義務もあります。その上で、使えない部分の修理回復を行うことになります。
■借り主は、被害にあったらすぐに家主に伝える義務がある
――「地震発生時には貸主に傷について言い出しにくく、退去時に伝えたことでトラブルになった」という例があります。どう考えればいいでしょうか。
穂積さん:これは最もトラブルになりやすいパターンです。こういう例があります。
「ノートパソコンが机から落下して、壁紙が破れてフローリングに傷ができた。しかし借り主はパソコンの修理で頭がいっぱいで、家主に伝えることをしなかった。
3年後の退去時に、『あの地震のときの傷です』と言ったところ、『確かな証拠はあるのか』と疑われ、『原状回復の義務』として、敷金から修理代を差し引かれた」
これは、貸主が、「本当に地震のときの傷なのか?」と疑った例ですが、この場合は、借り主側に原状回復の義務が生じる、つまり借り主が弁償することになりがちです。
というのも、賃貸契約書には、「入居中、物件が破損、損傷した場合はすみやかに申し出てください」という項目があります。報告が遅れたり、未報告だった場合、その損傷の原因が、故意、過失、事故、災害などの判断がつかなくなるからです。
契約前に借り主が仲介業者から受ける「重要事項説明」でも、説明を受けているはずです。
借り主は、「災害や事故で破損したときは、即座に貸主に報告する義務がある」ということをしっかり覚えておき、実行しましょう。
報告を受けた貸主側は、すぐに破損個所を確認し、できるだけ早く修理に取りかかる義務があります。
何かがあればお互いに義務が生じるわけですが、それを怠るとトラブルに発展しやすくなります。
――とは言っても、借り主は自分の身の回りのことを整えるので精一杯で、すぐに報告できないこともありそうです。
穂積さん:よくあると思います。「重要事項説明」の際に、仲介した不動産会社がきちんと、これらのことを説明したかどうかという問題もあります。
何よりも、災害が起こったときはまず、貸主や管理会社は、借り主に対し、「被害はありませんでしたか」と聞いて歩き、安否と被害の有無を確認するべきです。
借り主も、「部屋を大事に使う。何かあればすぐに届けよう」という意識を持つと、後々のトラブル回避につながるでしょう。
――ありがとうございました。
「自然災害による破損では、借り主は修理回復する義務はないが、すぐに貸主に報告する義務がある」。地震、台風、雷、大雨など、次々と自然災害が起こる昨今、賃貸住宅に暮らす上で重要な情報です。
監修:穂積啓子氏
「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引主任者。その活躍ぶりは、コミックエッセイ『不動産屋は見た! ~部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子 東京書籍 1,155円)に描かれました。同書の主人公「善良なる大阪の不動産屋さん」は、穂積氏がモデルです。
(藤井空/ユンブル)
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