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いただきさん 師走の花道

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いただきさん 師走の花道

 高松市で鮮魚を売り歩く女性の行商人「いただきさん」が姿を消そうとしている。

  • 朝日が昇ると同時に出発する橋本琴栄さん。新鮮な魚を届けるため、客の元へと急ぐ
  •   

      午前6時、橋本琴栄さん(77)は同市中央卸売市場で買い付けた鮮魚を、専用のリヤカー付き自転車「横付け」に積み、ゆっくりとこぎ出す。

      橋本さんが1キロ離れた住宅地に姿を見せると、常連客が集まる。「太刀魚は野菜と一緒に揚げるといいよ」。記憶している客の好みや家族構成を考えて調理の助言も。午後2時には完売した。

      いただきさんは江戸期から記録が残り、魚を入れたおけを頭に載せて(頂いて)売り歩いたから、そう呼ばれたとも伝わる。新鮮で安価な魚がうけて、半世紀前には数百人いたが、高齢化とスーパーなどの普及で減り、定期的に営業するのは今では10人ほど。大半が70歳以上で、最高齢は85歳だ。

      「横付け」の屋根付きサイドカーのような形状は、同市の自転車販売業、前田正文さん(80)が約60年前に発案、一人で組み立ててきた。2年前に、メーカーが頑丈な自転車とタイヤの製造を終了。故障したら在庫部品を使って丹精込めて修理する。しかし、そんな作業もいただきさんが減って、めっきり少なくなった。

      橋本さんは幼い娘を育てるため、30歳代から重いペダルを踏み続けた。「娘はお客さんに大きくしてもらった」。感謝を胸に、今月末で引退する。

      写真と文 長沖真未(12月2日~6日、高松市で撮影)

    • 笑顔で魚をさばく橋本さん(左)。なじみの客は「本当においしい魚だけを家の前まで届けてくれる。橋本さんがいなくなったら、どこで買えばいいのか」
      • 市場の鮮魚店を手伝う湊マツエさん(84)(左)。一線は退いたが、客から声がかかると今でも魚を届ける。この日は同級生が訪ねてきて、再会を喜び合った
        • 市場で客に届ける魚を選ぶ小倉美佐子さん(78)(中央)。この道50年、新鮮でおいしい魚を見分ける目は確かだ
          • 「横付け」を整備する前田さん。さびにくいステンレスのパイプでリヤカーを取り付け、魚が傷まないようテント地の屋根で覆うなど工夫を重ねた

              

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