【カイロ秋山信一】国連イラク支援団(UNAMI)は23日、2014年に少なくとも3万3368人の非戦闘員が紛争やテロで死傷したことを明らかにした。イスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)が大規模侵攻を始めた昨年6月以降だけで、2万人以上が死傷。国連のムラデノフ事務総長特別代表は「ISは暴力と分裂をけしかけて、イラクの国家と社会の破壊を狙っている」と警告した。
国連の報告書によると、14年1月〜12月10日の間、戦闘などで非戦闘員1万1602人が死亡、2万1766人が負傷した。紛争で自宅を追われた国内避難民は少なくとも200万人に上った。イラクの人口は約3376万人。IS支配地域などでの調査に限界があるため、報告書は「死傷者はさらに多い可能性がある」と分析している。
また、ヤジディー教徒やトルクメン人、クルド人など少数民族や宗教的少数派が、ISによる虐殺、レイプ、人身売買、奴隷化、徴兵などで人権侵害を受けていると指摘した。
さらに、ISと同じスンニ派部族400人が殺害された例を挙げ、「ISは敵視する相手を無差別に攻撃する」とも指摘した。ISに従わない部族指導者や宗教指導者、ジャーナリスト、医師、弁護士などが「潜在的な敵」とみなされているという。IS支配地域では独自の裁判に基づき、少なくとも165人が処刑された。
一方、シーア派が主導するイラク政府の国軍や政府系民兵組織にも、捕虜の虐殺やスンニ派住民の拉致などの報告があると指摘した。イラクではシーア派主導政府に対するスンニ派住民の不満が、スンニ派から派生したISの勢力拡大につながった経緯がある。政府側の攻撃でスンニ派住民の被害が増大すれば、将来に禍根を残す恐れが強い。
報告書は、政府側の空爆や砲撃による非戦闘員の死亡事例にも言及したが、米軍主導の有志国連合による空爆の被害については「地上にいる情報提供者は必ずしも攻撃主体を特定できるわけではない」と説明するにとどまった。
ISはイラク、シリア両国に実効支配地域を広げている。シリアでも過去4年間に20万人以上が死亡し、国民の約半数に当たる1000万人以上が難民として周辺国へ逃げ出したり、国内避難民になったりしている。【カイロ秋山信一】シリア内戦の情報を収集している在英民間組織シリア人権観測所は24日、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が北東部ハサカ県で少数民族アッシリア人のキリスト教徒約90人を拉致したと明らかにした。AP通信によると、ISが運営するラジオ局アルバヤンも24日、「数十人の十字軍(キリスト教徒)を拘束した」と伝えた。拉致の目的は不明だが、アッシリア人がISと戦うクルド人民兵に協力したことへの報復との見方もある。
APなどによると、ISは23日早朝にハサカ県ハサカ西郊の複数の村を襲撃し、女性や子供を含む多数の住民を拉致した。拉致されたのは100人以上との情報もある。ハサカ周辺ではクルド人民兵とISが激しい攻防を続けており、アッシリア人の一部はクルド人に加勢している。ISは実効支配地域でキリスト教徒に「人頭税」を課すなど、差別的な扱いをしている。