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「30年以上暮らし、被災も免れた家から『立ち退け』と言われる者の気持ちになってほしい」。先月中旬、緑井地区の男性(71)は、ダム建設に伴う用地買収の説明に来た国土交通省の男性職員2人に、思わず語気を強めた。
二次被害を防ぐために建設が決まった43か所のダムのうち、28か所が集中する八木、緑井両地区。特に難航しそうなのが、男性宅など約70の民家や住宅跡がある、山裾の4か所だ。
今後、土地所有者に国が立ち退きを求めるが、買い取り価格は交渉時の時価。大半の土地が、昨年12月に県が公表した土砂災害特別警戒区域の指定予定地に含まれており、災害前よりも下がるのは確実だ。
「住み慣れた土地を離れるのはつらいが、地域の安全のためならばやむをえない」と話す男性だが、提示額があまりに安ければ、応じるのは難しいという。「この年齢ではローンも組めない。生活していけるだけの値段ならば良いのだが」と不安を募らせる。
さらに、約50年前に造成が始まった両地区の道幅は狭く、重機やダンプカーを通すには、道を広げる必要がある。道沿いの土地を借りるなどして5ルートの確保を目指すが、国の担当者は「地主と交渉が進まない箇所もあり、ルート変更も考えている」と打ち明ける。
立ち退きや道路拡幅の不要なダムでも、土地所有者が海外に住んでいたり、土地境界が画定していなかったりと、建設が難しい例があるという。
大量の土砂が山あいに残る被災地では、最大で約16万4000人に出された避難指示、勧告は昨年11月に全て解除されたものの、砂防ダムなどが整備されるまで、大雨警報発令で避難勧告を出すといった発令基準の引き下げが続く。
市が昨年12月に発表した「復興まちづくりビジョン」の原案も、砂防ダムや避難路で安全を確保し、現地で住宅再建を進めるとする。
国と県は、ダム建設計画のうち、特に危険な32か所を緊急事業として進めているが、八木、緑井地区を中心に、あと1年余りでの完成が困難なものは少なくない。国の担当者は「用地交渉もこれからで、いつ完成できるかはとても言えない」と言葉を濁す。
昨年12月、修理を終えた緑井の自宅に戻った保育士の女性(54)は、ダム予定地がある裏山を眺めながら話した。「立ち退きを迫られる人には本当に申し訳ないが、今のままでは安心して暮らせない。一日も早く、ダムを造ってほしい」