各国の首相、大統領経験者らが集まり安全保障や世界経済について議論するインターアクション・カウンシル（ＯＢサミット）がこのほど、「政策決定における倫理」という英語の本を出版した。これを機にＯＢサミットは３０年以上にわたる活動に終止符を打った。
　
　　ＯＢサミットの提唱者は福田赳夫元首相だった。冷戦下の１９８３年にウィーンで開かれた初回総会の主要テーマは米ソの軍拡競争。その後も人口問題や環境問題など地球規模の課題について毎年議論し、提言を行ってきた。
　
　　功績の一つがユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの宗教指導者と政界ＯＢとの対話だった。世界平和の実現には「心の問題と真正面から取り組まなければならない」と考えた福田氏の意向で８７年にローマで開催。その後も、福田氏は「普遍的な倫理基準を確立できないか」との模索を続けた。ＯＢサミットは福田氏の没後の９７年、人種や宗教を超えて、人は「全ての人々を人道的に遇する責任を負っている」などとした「人間の責任に関する世界宣言」を発表した。「政策決定における倫理」も宗教指導者を招いて開かれた昨年３月のウィーン総会の成果を紹介した本だ。
　
　　皮肉にもＯＢサミットが終わろうとする時期に、イスラム過激派組織「イスラム国」（ＩＳ）が台頭した。ＩＳは人種や宗教上の差別を受け、孤立した若者らを狙ってネットで勧誘を続ける。ＩＳへの軍事作戦は短期的には効果を上げても、根本的な解決には至らない。問題の根源は人の心の中に潜んでいるからだ。心の問題と真正面から取り組む。そうしたＯＢサミットの精神は受け継いでいかなければならないと思う。