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■今年のベア? 「広がるよ、でも……」
「今年のベアはどうなりますか?」
私は、賃金コンサルタントという職業柄、このような質問をよく受ける。これに対して、私は「ベアは広がる」と即答している。確かに、数日前、トヨタ自動車は賃上げ月額4000円、日産自動車も同5000円で春闘の労使交渉が事実上決着したとの報道もあった。
だが、私は「ベアは広がる」の後にこう付け加える。
「ただし、大手の間の話だ。中小企業では、業績に明暗があるので一概に言えないが、ベアの実施はほんの一部しかないだろう」
▼初任給の引き上げは顕著な動き
私が代表を務める北見式賃金研究所(名古屋市)は2015年2月、顧客を対象にして新卒初任給の調査を行った。愛知県下の中小企業104社が回答した。2015年4月入社の人の初任給を引き上げる会社は、18%にのぼった。さらに2016年の初任給に関しても早々に引き上げを決めた会社もある。
初任給を引き上げる理由は何か?
それはもちろん求人が目的である。アベノミクスが始まって以来、求人難の傾向が強まり、中小企業は応募者が集まらずに苦労しているところが少なくない。
初任給は、これまで多くの企業が据え置いてきた。リーマンショック以降、人減らしが進行する中で、初任給を引き上げた会社は希で、話題にすらならなかった。だが、アベノミクスで様相が一変した。
▼2014年にベアを実施した中小企業は6%のみ
北見式賃金研究所は昨年、2014年春に顧客の賃金明細を検証した。
顧客各社の給料の改定前と後の賃金を比較して、どのように上がったのか実態調査を行った。比較したのは基本給の増減である。94社から8600人の社員の賃金明細を入手できた。経理部経由の1円の間違いのない、正確無比なデータである。
ここで問題になったのは、ベアという言葉の定義だった。賃上げには、ベースアップと定期昇給という2種類がある。
ベースアップ、つまりベアとは「賃金を全員一律に底上げすること」である。
これに対して定期昇給、つまり定昇とは「1年間の勤続を評価して賃金を引き上げること」である。
だが、実際には中小企業ではベアと定昇が分かれていない場合が多い。そこで「初任給を引き上げ、かつ、初任給アップ額以上の賃上げをほぼ全員に行った」会社のことを、ベア実施とみなした。
▼若年層のみ恩恵 いい人材採用のため
この賃金明細の実態調査で、次のようなことがわかった。
ベア実施は会社単位で6%。…