[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ただいまコメントを受けつけておりません。
福島を取材で訪れた主人公が鼻血を出す描写が大バッシングを受けた『美味(おい)しんぼ』鼻血問題。
【写真】雁屋哲氏が描いた「福島の真実」
騒動から10ヵ月がたった先月、原作者の雁屋哲氏が沈黙を破り、ついに反論本『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』(遊幻舎)を出版。
先日のPART1(記事はこちら→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/13/44879/)では、福島での取材後に鼻血を出した雁屋氏自身が自らの経験を告白。そして、放射線医学の専門家の取材を通し「低線量被曝でも人によっては鼻血が出ることがわかった」と語った―。
***
―しかし、低線量被曝では鼻血はあり得ないとする専門家も多いですね。
雁屋 でもね、彼らは鼻血が出ない根拠を科学的に説明しないで、あり得ないと言う。御用学者が言うことは科学でもなんでもない。彼らは政治言語をしゃべっているだけです。
東大のある教授が「プルトニウムは何も怖くない。水にも溶けないし、仮に飲んだとしても排出されてしまう」と言ったことがあります。しかし原子炉が爆発すると、プルトニウムをはじめとする放射性物質は、マイクロ単位の小さな球体になってエアロゾルのような形で鼻に入るんです。
(注:プルトニウムが消化管に入ると微量が吸収され、骨や肝臓に数十年間沈着し、強力で有害なα線を出し続ける。吸入すると一部がリンパ節に取り込まれて発がん性があると指摘されている)
それに、放射線の研究をしているほとんどの学者は原子力産業寄りのICRP(国際放射線防護委員会)の言っていることをそのまま信じている。そんな科学者の話は全然科学的ではない。
―プルトニウムを飲み込むのと吸い込む危険性は違うと思いますが。
雁屋 説明のできない事象が生じた時、今までの常識と違うけれどもこういうことがあるんじゃないかと仮説を立て、それを実験で確かめていく。ひとつの仮説が確立したとしても他の人が異説を出し、ぶつかってぶつかって、最後に正しい仮説にたどり着く。それが証明されて初めて「説」になる。それが科学の筋道で、そうして一歩ずつ進んできたのが科学の歴史です。
ところが鼻血騒動では、自分たちの持っている科学的な知識と知見で説明できない事象を示すと、科学的にあり得ないとヒステリックに反応し、それについて考えることを拒否する。それこそまったく非科学的です。
―低線量被曝による鼻血は新しい事象だから、まず調べるのが科学的なアプローチだと。
雁屋 原発事故後、福島などでたくさんの人たちが鼻血を経験した。それは今までの科学で説明できない事象です。だからこそ、非科学的だと言って葬り去るのではなく研究対象にして、なぜ今までの科学で解明できないのかという方向へ向かわなきゃダメ。
それをせず、最新の放射線医学も知らず、古い物理学の知識で「鼻血なんかあり得ない」「科学的に認められてない」と言うのは、その学者たちが認めたくないだけです。それに鼻血はたったひとつの症状です。放射線ってもっといろんな害を起こしてるわけですから。
―例えば、どんなことが考えられますか?
雁屋 仮設住宅に住むお年寄りが心臓の疾患で亡くなったケースでも、内部被曝が心筋に影響を与えたことも十分考えられる。こういう状態だったら、みんなで心臓の筋肉を調べるべきなのに検討すらしない。心臓だけでなく、すべての臓器に内部被曝の影響はある。
イラク戦争の時、アメリカ兵は劣化ウラン弾から出た放射性物質を吸い込んだ。その後、アメリカに戻り、その妻は放射線の影響とは無縁だったのに、死産だったり生まれた子供が障害を持ってたりする例がたくさんある。チェルノブイリでも障害児がたくさん生まれている。みんな内部被曝の問題です。
だから、国が年間20mSvまでは安全だと言った時は、本当にびっくりしました。
―福島が安全だと指摘する人たちは、放射線量や住民の被曝量も下がっているから大丈夫だといいます。
雁屋 今使われているホールボディカウンターで測定できるのは体内から出てくるγ線だけ。内部被曝で一番問題になるβ線やα線は体内にとどまって外に出てこないから測定できない。ホールボディカウンターの値が低いから内部被曝がないとはとても言えない。空間の放射線測定でも基本的にはγ線しか測っていない。だから値が下がったから大丈夫だっていうのは、内部被曝をまったく無視したばかな話です。
■雁屋 哲(かりや・てつ)
1941年、中国・北京生まれ。東京大学教養学部基礎科学科で量子力学を専攻。電通勤務を経てマンガ原作者になり、1983年より『美味しんぼ』(画・花咲アキラ氏)を連載
(取材・文・撮影/桐島 瞬)