今年も確定申告(2月16日-3月16日)のシーズンとなったが、非課税枠が縮小した相続税法改正などで、税務申告はサラリーマンにとってもひとごとではなくなってきている。税務署の調査の実態はどうなっているのか。テレビドラマ化も決定した“実録本”『国税局直轄 トクチョウの事件簿』(ダイヤモンド社)の著者で、元国税調査官の上田二郎氏に、職人集団といわれる国税職員の仕事ぶりを聞いた。
上田氏は東京国税局査察部、通称「マルサ」で計17年間勤めた税務調査のプロ中のプロ。妻の実家を継ぐために2009年に退職したが、最後の2年間勤務した千葉県内の税務署の「特別調査部門」(トクチョウ)での活動を1冊の本にまとめた。
トクチョウは、資本金1億円以上の大企業を狙うマルサと比べると規模は小さいが、国税局の調査の花形部署だ。弁護士や司法書士などの士業や、歯科医師などの高所得者のほか、繁華街の風俗店などを多く扱うため「ピンク部門」とも称される。
気になるのはどうやって調査対象を選ぶのか、だ。「ピンク部門の調査では夕刊紙の広告も参考にするし、高額納税者の資料は全て持っていて、収入に対して所得金額が小さいと、調査対象になってくる。例えば、勘定科目に記載された数字の羅列が端緒となることもある。経験で培われた感性が頼り」という。
著書では、商取引が複雑で調査が難しいといわれる美術商の不正取引を暴いていく過程や、多忙を理由に調査を拒否する弁護士との心理戦などが生々しく描かれる。
「美術商の案件では、出張先でたまたま年に2回だけの特別展示会に出くわしたことが、全容解明につながった。調査には“ツキ”がある」(上田氏)。専門知識を武器にナゾを解明していく痛快さが評判を呼び、フジテレビ系で同書を題材にしたドラマ化が決定(放送日未定)。女優の名取裕子が主演する。
昨今は、サラリーマンの還付申告が増加し、税務署は申告書の整理に追われて調査に十分な日数を確保できないのが実情という。
「公平に税金を払っている人たちが損をしないように頑張るのが国税職員。税務署は世間の嫌われ者だが、サラリーマンの方には、味方になってもらいたい」(上田氏)
税務署との付き合い方も学べる1冊だ。